Staff Blog

子宮内膜症手術後も周産期リスクや合併症に関係している可能性がある

公開:2020.06.08 最終更新:2020.11.10

研究結果

こんにちは

桜十字ウィメンズクリニック渋谷院長の井上です。

子宮内膜症を合併されている患者様は多くいます。報告によると生殖年齢の女性の5−10%ほど、不妊症女性の50%近くに合併しているといわれています。主な症状は、月経困難症、慢性骨盤痛、性交疼痛症などがありつらい思いをされている方も多いと思います。

子宮内膜症の治療は、薬物療法や手術療法がありますが、妊娠をご希望された場合、薬物療法は困難で痛みを取り除くなどの対処療法や手術療法が主になってしまいます。手術療法は子宮内膜症のみを摘出することが難しく、正常部分もとれてしまうこともあります。そのため、内膜症をお持ちのまま不妊治療をされる方や、手術後に不妊治療される方などさまざまです。

妊娠は子宮内膜症に関連している上記の症状の改善につながる可能性がありますが、いくつかの研究では子宮内膜症が産科合併症のリスクを増悪させている可能性も報告されています。早産、前置胎盤、分娩前および分娩後の出血、低出生体重、帝王切開、腸穿孔などのリスクが増加すると報告もあります。また、子宮内膜症病変の種類、および子宮内膜症手術既往も、産科の転帰に影響を与える可能性も報告されています。

本日は子宮内膜症手術と周産期リスク・合併症についてのフランスの報告をご紹介いたします。

Fertility and Sterility

”Pregnancy outcomes in women with history of surgery for endometriosis”

妊娠前に子宮内膜症の手術を受けた1,267人のうち、569人が手術後に少なくとも1回妊娠した方を対象とし、早産、前置胎盤、在胎期間より小さく生まれた新生児(SGA)に関してそれぞれ調査しています。

  1. 早産については、単胎妊娠535件中53件(9.9%)、双胎妊娠31件中19件(61.2%)で発生し、BMI・膀胱子宮内膜症・直腸手術・妊娠様式に関係している可能性がありました。
  2. 前置胎盤については、単胎妊娠535件中9件(1.7%)、双胎妊娠31件中0件(29%)で、内膜症ステージ・妊娠様式に関連している可能性がありました。
  3. SGAについては、単胎妊娠535件中81件(15.1%)、双胎妊娠31件中9件(29%)で観察され、子宮内膜症の有無・妊娠様式が関係しているのではないかという結果でした。

ここでさらに多変量解析という方法で独立した要因を詳しく分析すると、

  1. 早産リスクの増加に関連する独立した要因は、ARTによる妊娠、BMI> 30 kg / m 2、および直腸・膀胱に浸潤する深部子宮内膜症の手術の既往でした。
  2. 前置胎盤に関連する独立した要因はARTでの妊娠でしたが、この報告では前置胎盤の女性はすべて内膜症ステージIIIまたはIVの手術を受けていました。そのため、ARTでの妊娠が前置胎盤のリスクを増加させるかは不明でした。
  3. SGAに関連する要因は、内膜症性嚢胞手術でした。

まとめますと

フランスの一般集団と比較して、子宮内膜症手術の既往を持つ女性におけるSGAおよび早産の有病率が高いことを明らかにしました。これらの結果は、妊娠前に子宮内膜症が完全に治癒しているにもかかわらず、子宮内膜症の手術歴のある女性が産科合併症のリスクが増加することを示唆しています。

さらに、直腸または膀胱の深部子宮内膜症の治療を受けた女性は、早産のリスクが高くなりますが、ARTによる妊娠が多いため、これらの結果に影響が出ている可能性があります。

ただ、自然妊娠群において子宮内膜症手術の既往が一般集団と比較して、周産期リスク・合併症が高いかどうかを判断するのは、さらなる研究が必要です。