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【院長ブログ】DNAダメージを受けた精子を回避して胚盤胞、生児獲得率上昇を目指す(精子セパレーター)

2020.09.07 研究結果

こんにちは

桜十字渋谷バースクリニック院長の井上です。

生児獲得に影響する因子として、卵子・精子・子宮の状態が大事であることは当たり前でありますが、DNA損傷を受けた卵や精子がどのように影響するか明らかにはなっていません。DNA損傷を受けた卵や精子は、胚発生や生児獲得に影響する可能性が考えられます。そのため、生殖医療において、DNA 損傷精子を避け、受精させることで胚の DNA 損傷を回避することも予想できます。ただ、卵子の修復機構によりある程度の精子DNA損傷は補われているため、すべての精子DNA損傷が胚発生や生児獲得に影響するわけではありません。

遠心分離や活性酸素による酸化ストレスなどにより精子DNAのらせん構造が損傷する可能性が報告されています。また活性酸素やDNA損傷が流産にも関係している可能性もあります。

当院では、マイクロ流体精子選別装置(精子セパレーター)を使用し、この精子DNA損傷をなるべく避けた方法も行なっています。

この精子セパレーターは、8μmの微小な穴を流路とする装置で、この微小構造より最も前進運動性の高い精子が通過し、その他の通過できない奇形精子や不動精子は回避することができ、遠心分離せずに精子を回収する装置です。スイムアップや密度勾配に比べて DNA のダメージが少ないことが期待できます。

この精子セパレーターを使用した治療についての報告をご紹介いたします。

“A treatment approach for couples with disrupted sperm DNA integrity and recurrent ART failure”

症例数が少ないのですが、48組のカップルを対象とし、従来の密度勾配選別法と精子セパレーターを使用し処理した精子を比較しています。

精子DNAのダメージを受けている状態のDNA断片化を比較すると

 未処理 濃度勾配 精子セパレーター P
DNA断片化 20.7±10 12.5±5 1.8±1 <0.0001

 

精子セパレーターで処理した精子のDNA断片化が少ないことがわかりました。

ICSI,PGT-Aを行なったカップルでの検討では症例数が少なくなんとも言えませんが、臨床結果は有意差を認めませんでした。

濃度勾配 精子セパレーター P
良好胚率 26.3% 57.1% N.S
臨床妊娠率 25.0% 50.0% N.S

 

DNA 断片化の程度は,一般の健康な男性や妊孕能を有する男性集団に比べて不妊症の男性集団で高いという報告があるため、このようなデバイスを使用し少しでもDNA断片化の少ない精子を使用し、胚発生を改善、生児獲得率上昇を目指せる可能性があります。

しかし、症例数が少なく決定的なことは言えずさらなる報告が待たれます。

追加コストがかかる以外は、悪い影響をもたらすことはないように思えます。なかなか胚盤胞にならないような方は一度試しても良いかと思われます。