ファストフードや外食が妊娠に与える影響
公開:2018.07.12 最終更新:2024.08.30
不妊と食事生活習慣
桜十字ウィメンズクリニック渋谷培養部です。
今回は海外の学会誌Human Reproduction Vol.33, Issue6, 6月号から食と不妊にまつわるトピックをご紹介します。
ファストフードと妊活
仕事などが忙しいとついつい食べてしまうファストフードですが、学会誌に掲載されている論文ではファストフードを食べ過ぎると妊娠に悪影響を及ぼす可能性を指摘しています。
豪・アデレード大学の Claire Roberts教授が率いる研究チームはオーストラリア、ニュージーランド、イギリス、アイルランドの妊娠14~16週の総計5,598人の女性を対象として食に関する調査を行いました。
すると、妊活をスタートした時点でファストフードを毎週4回以上(朝昼晩のいずれかで1回、或いは複数回)食べた人は、一度も食べなかった人よりも妊娠するまでに少なくとも1周期以上の日数を要したことがわりました。また、より多く摂取している人ほど妊娠するまでに時間を要したことも報告しています。
果物・緑黄色野菜・大豆製品・魚と妊娠の関連性
さらに詳しい調査では果物を月に4回以下しか摂取しなかった群では妊娠までに最も時間がかかった事に加え、妊娠後1年以内に何らかの疾病を発症するリスクが約16%高いことを指摘しています。
一方でこの論文では従来は妊娠に良いと考えられていた緑黄色野菜・大豆製品・魚などの摂取と妊娠までに要する時間とは一切関連性が無かったことも記述されています。
Roberts教授はこれらの結果から果物を積極的に摂取し、ファストフードの消費を最小限に抑える良質な食生活を送ることで妊娠の可能性がより向上し、妊娠までにかかる時間が短縮されるのではないかと考察しています。
また、本論文では男性側の食事に関する影響についても分析する必要があり今後の検討課題としています。
フタル酸エステル
少し違った視点からファストフード(外食)が妊娠に悪影響を及ぼす可能性について述べている興味深い論文が、環境科学の国際誌Environment International, Volume 112, (2018, 269-278)に発表されています。
ファストフードを始め、外食があまり健康的では無いとする研究は多くの分野で多岐にわたって行われており、すでにほぼ常識と化していますが、米国・ジョージ・ワシントン大学とカリフォルニア州立大学の共同研究チームは環境科学という観点から化学物質である「フタル酸エステル」に注目しています。
フタル酸エステルはプラスチックやゴム製品を軟らかくして形成しやすくしたり、強度を高めたりするために使用されます。外食産業においては容器、食器、ストロー、店員が使うゴム手袋、食品を包む紙など、ありとあらゆる場所で使われていますが、この容器に付着しているフタル酸エステルが食品が接触することで反応して溶け出し、食品内に混入しているのではないかと指摘しています。先行研究より、フタル酸エステルのうちの数種類が内分泌系(ホルモン)に悪影響を及ぼす可能性が示唆されており、女性においては乳がんや不妊症を引き起こす原因になると考えられています。
食生活とフタル酸エステルの相関
米国・ジョージ・ワシントン大学のAmi R Zota准教授とカリフォルニア州立大学のJulia Varshavski教授は、米国国民健康栄養調査(NHANES)が2005~2014年に行った10,253人分の食に関する調査データを分析し、フタル酸エステルの尿中濃度を調べて食事との相関関係について調べました。
その結果、ファストフードやレストランを利用するなど日常的に外食をしていた人は自宅で食事をすることが多い人と比べて尿中のフタル酸エステルの濃度が35%高いことを示しました。
また、年齢別で見るとフタル酸エステルの濃度に最も大きな影響を受けていたのは10代~20代前半の若者であり、外食が多かった人とそうでない人を比較すると実に55%も尿中の濃度が高かったと報告しています。
Zota准教授は「フタル酸エステルを摂取することによる内分泌系への有害な反応は特に妊婦や子どもが受けやすい」としており「子どもの成長過程において内分泌系は非常に重要な働きを担うため、どうすれば食品にフタル酸エステルが入り込むのを防げるかを製造工程や販売の段階から考えていく必要がある」と述べています。また、Varshavski教授は若者においてフタル酸エステルの尿中濃度が高かったことから、このまま摂取をし続けることで将来的に不妊症になるなど「生殖になんらかの支障をきたす可能性」についても言及しています。
過去に行われた研究より、マウスではフタル酸エステルが生殖器に対して毒性を示すことが知られていますが、現時点では急性毒性の低い物質であるとされており、長い期間に渡って大量に摂取しない限り影響はほとんど無いレベルであると考えられています。
たまにハンバーガーを食べたり外食をしたりする程度であればさほど大きな問題は無いのではないかと考えられますが、バランスのとれた食事を心がけることが健康にも妊娠にも良いということは間違いなさそうですね。