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アッシャーマン症候群の方は胚移植時の子宮内膜の厚さは妊娠に影響しない?

公開:2021.02.06 最終更新:2021.02.18

研究結果

こんにちは
桜十字ウィメンズクリニック渋谷院長の井上です。

アッシャーマン症候群とは?

子宮内に癒着をきたして一部または完全に閉塞しているとしてKhan and Goldbergらにより定義され、Ashermanによりまとめられた症候群です。痛み、月経困難症、月経不順、不妊症などを引き起こします。

子宮内膜線維症につながる子宮内膜基底層への外傷性の損傷後に発生することがあります。また、流産などによる手術や子宮動脈塞栓術により引きおこされた報告もあります。

子宮内膜組織が萎縮性、無血管性、ホルモン反応性のない線維性瘢痕組織に置き換わり癒着を引き起こし、エストロゲンに反応しないため子宮内膜は厚くならず、超音波測定では子宮内膜が薄く観察されます。

ChenらDeansらにより子宮鏡での癒着剥離を行い、48%から79%の妊娠率が報告されています。正常である子宮内膜組織が一部分あれば着床するのではないかという考えもあります。

胚移植において子宮内膜の厚さは妊娠率に影響すると報告する研究が多いですが、アッシャーマン症候群などの子宮内病変のある患者が除外されていることが多いです。そのため、この報告ではIVFを受けているアッシャーマン症候群患者のみを対象として子宮内膜の厚さと臨床妊娠率との間に関連があるかどうかを検討しています。

Fertility and Sterility
”Endometrial thickness measurements among Asherman syndrome patients prior to embryo transfer”
をご紹介いたします。

アッシャーマン症候群における子宮内膜の厚さと臨床妊娠率

子宮鏡での癒着解除を行ったアッシャーマン症候群の方 45人を対象として重症度別に分類、体外受精の成績と産科合併症について調査しています。

  • 子宮内腔の25%未満が癒着している場合は軽度
  • 子宮内腔の25〜75%が癒着している場合は中等度
  • 子宮内腔の75%以上が癒着している場合は重度
<結果>
  • 45人のアッシャーマン症候群患者のうち25人(55.6%)は、体外受精で最終的に1回は臨床妊娠が確認できています。
  • 二変量解析により臨床妊娠の有無で有意差があったのは年齢のみでした。
  • 臨床妊娠の有無で検討した場合、子宮内膜の厚さはそれぞれ7.5±1.9mm対7.6±1.4mmと有意差はありませんでした。多変量解析でも年齢、子宮内膜の厚さ、臨床妊娠の有無を検討しても子宮内膜の厚さと臨床妊娠との間に関連性がないことを再度確認ました。

アッシャーマン症候群の重症度と内膜の厚さ

アッシャーマン症候群の重症度の増悪とともに平均の子宮内膜の厚さが薄くなったという結果でした。ET前の平均の子宮内膜の厚さは、軽度アッシャーマン症候群で8.0±1.6mm、中程度アッシャーマン症候群で7.0±1.4mm、重度アッシャーマン症候群で5.4±0.1mmでした。

しかし、妊娠に関しては31.8%が子宮内膜の厚さ7.0 mm未満であるにもかかわらず、33.3%も臨床妊娠につながっていました。

癒着胎盤について

癒着胎盤に関しては、合計6/22症例(27.3%)の癒着胎盤(4症例の軽い癒着胎盤と2症例の穿通胎盤)を認めましたが、 ET前の子宮内膜の厚さと癒着胎盤の有無に関連性は認められませんでした。

まとめ

IVFを受けているアッシャーマン症候群の方の子宮内膜の厚さは臨床妊娠率とは関連していない可能性がありました。そのためアッシャーマン症候群の方が内膜の厚さの値によりETをキャンセルするのは慎重になる必要があり、癒着剥離後には妊娠率がある程度確保できており、内膜の厚さは関係がないのではないかという報告でした。

ただ、この報告では癒着胎盤が27%も認められました。癒着胎盤は術前に確定診断するのが難しく、出血のリスクが高く、子宮摘出を回避するためにさまざまな治療を行っても最終的に子宮を摘出しないといけなくなる可能性もでてきます。妊娠後に関しても十分に情報提供を行う必要があります。