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欧州生殖医学会で口頭発表を行いました(その1:培養液の酸化度と胚発生について)

公開:2023.11.09 最終更新:2023.11.06

研究結果

培養部の楠本です。今年6月に欧州生殖医学会に参加しましたので、ブログにてご報告したいと思います。

デンマークで開催されたEuropean society of human reproduction and embryology 39th Annual Meeting(欧州生殖医学会)に口頭発表を行うため参加しました。今回の学会参加者は10,831人、129カ国からの参加でした。欧州生殖医学会は生殖補助医療分野では最も権威がある学会として知られていますが、演題が採択されるのは年々難しくなっており、今回提出された演題は2,109件、口頭発表に採択された演題は184件でした。

 

今回発表したのは、胚に与える培養液中の酸化ストレスの影響に関しての研究結果です。体外受精培養液中の酸化ストレスレベルに着目し、それが胚の発育や妊娠の結果に与える影響について検討しました。

過剰な酸化により生体にダメージを及ぼす酸化ストレスは、DNA の損傷、脂質の過酸化、タンパク質の変性などを引き起こすことで、胚の発達障害、細胞機能障害やアポトーシスを引き起こす可能性があります。体外環境では卵子・精子や胚を大気中で扱う影響から酸化ストレスを受けやすく、治療に悪影響が出ることが知られています。非常に重要な影響を与える酸化ストレスですが、これまでに研究があまり進んでこなかったのは、適切なマーカーがないことが大きな要因の一つでした。今回の研究では酸化ストレスマーカーとして有用性が期待されており、臨床応用を目指して開発された酸化型アルブミン(HNA)の新規測定方法を用いました。

研究結果からは、体外受精用培養液は体内環境と比べて高度に酸化されていること、培養液の酸化ストレス値が高くなるほど胚盤胞発生率が下がること、胚盤胞移植後に流産をしたグループでは酸化ストレス値が有意に高い培養液で育った胚を移植していたことがわかりました。年齢や媒精方法よりも HNA 濃度の違いが発生成績に影響を及ぼしたことから、培地の酸化状態は胚の発生に悪影響を及ぼすことが示唆された結果となりました。

酸化ストレスと体外受精について、次回のブログで詳細をお伝えしていこうと思います。

欧州生殖医学会が行われたベラセンターです。ベラセンターはスカンジナビアで最大規模の会議場です。環境先進国のデンマークでは写真に写っているようなレンタサイクルが至る所で借りられるようになっていて、自転車に乗れば乗るほど税金が安くなる制度も導入されているらしいです。