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ヒト受精卵の遺伝子改変は許されるべきか、許されざるべきか?(生殖医療・研究)

2018.08.09 倫理

桜十字渋谷バースクリニック培養部です。

皆さんは『デザイナーベビー』という言葉をご存知でしょうか?
これは、受精卵の段階で遺伝子操作や選択を行い、親が望むままの外見や知力、体力などの身体的特徴を持ちあわせた子どもを作るための、技術的な一つのアイデアの事を言います。

なんだか近未来的なSF映画に出てくるようなお話しですが、実は、このような技術は既に確立されつつあります。今日はそんな近未来的(?)な、体外受精に関する“倫理問題”についての最新トピックをお話しします。

 

2012年に、遺伝子を改変するための生物学的遺伝子編集技術“CRISPR(クリスパー)”が構築されました。

CRISPRは、特定の遺伝子の位置を探してスキャンし、その遺伝子が発現して欲しくないものであった場合(※例えば、将来的に病気になる可能性がある遺伝子など)に、その遺伝子を切断、除去し置換します。

昨年の8月に、国際的な総合科学ジャーナルであるNatureのオンライン版で、この遺伝子編集技術をヒトの受精卵に適用して遺伝子を操作し、成功したことが掲載されました(2017.8.2付,  Oregon Health & Science University, Shoukhrat Mitalipov博士らの研究より )。

 

この発表以降、ヒト受精卵の遺伝子改変を行うことに関する議論が、現在、アメリカやヨーロッパ諸国を中心に急激に加速しています。

ヒト受精卵の遺伝子改変について、英国審査議会会長のKaren Yeung教授は、「社会への影響は、広範で大きく、深く、長期的なものになる」と述べているものの「この科学を追求しない絶対的な理由はない」という考えを示しています。

現在、アメリカやイギリス、オーストラリアなどでは、ヒトの生殖補助のために受精卵の遺伝子改変をすることは法律によって禁止されていますが、一部の研究利用では許可されています。例えば、体外受精治療後などに廃棄予定となる受精卵の遺伝子編集であれば、研究利用直後に必ず廃棄することを条件に行うことが出来ます。

 

遺伝子改変を行うことの大義名分は“特定の遺伝病の撲滅”ですが、デザイナーベビーへの扉を開いているという懸念から、現在、様々な分野から論争を呼び起こしています。

遺伝子操作に反対する国際団体Human Genetics Alertの創始者で分子生物学者のDavid King博士は、「この技術の確立は、全人類において恥ずべき行いである。我々は30年にわたって優生遺伝工学の国際的禁止を訴えて来た。その結果、国際社会が少しずつ遺伝子組み換え食品(GM Food)を排除する方向へ向かっているにも関わらず、なぜGM Babyを望むのだろうか」と述べています。

生命倫理について議論を行う国際団体であるNuffield CouncilのHugh Whittall議長は、「社会的な変化は一晩では起こらないものである。遺伝子改変技術は、遺伝病に苦しむ患者に向けた革新的な技術であり、科学者たちのより一層の探究が望まれるが、一方で社会的な不利益・差別・分裂を増やしてはならない」と述べています。

 

ドキュメンタリー作品「ダウン症候群のない世界」の脚本家で女優のSally Phillipsさんは、自身の子どもがダウン症である経験も含め、遺伝的変異の除去によって、ある集団が“編集”されやがて“削除”される可能性について、幅広く包括的な社会討論を呼びかけています。

 

遺伝子改変の是非については、現在、日本でも様々な方面から議論されていますが、依然として大きな不確実性があることを強調しておきます。

「変化は一晩では起こらない」とWhittall氏が語るように、こういった倫理論争は今後ますます過熱していくと思われます。

 

我々は生命を扱うプロとして、常に新しい知識を取り入れ、正しい倫理観を持って真摯に治療に取り組めるよう、社会の動きを見ながら今後一層努力していきたいと考えています。