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不妊症の原因となる『多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)』の新たなる知見(不妊原因)

2018.09.06 研究結果

桜十字渋谷バースクリニック培養部です。

“不妊症”について様々な原因があるということを過去のブログでもご紹介していますが、その中でも頻度として高いのが多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)です。

 

WHO(世界保健機構)の調べによると、PCOSはその重さは異なるものの、世界中の5~10人に1人の女性に何らかの影響を与えていると考えられています。

 

通常、卵巣内で卵胞が育っていくと約28日に1個のペースで卵細胞が成熟し排卵します。卵細胞は卵胞という袋の中で発育していき、この袋がだいたい2cmくらいの大きさになると破裂(排卵)します。PCOSでは、この卵胞という袋が卵巣の中にたくさん発育し、ある程度の大きさにはなるものの、何らかの理由で排卵が起こりにくい、あるいは排卵しないといった状態となります。

 

通常、排卵すると卵胞は黄体と呼ばれる妊娠の維持(子宮内膜の発達など)に働く内分泌構造へと変化します。しかし、PCOSになると排卵が起こらないため、卵胞ホルモンであるエストロゲンばかりがずっと分泌され続けて、黄体ホルモンであるプロゲステロンが産生されないという状態が継続するため、月経不順(無月経、無排卵状態)が引き起こされます。

 

また、重度化すると、プロゲステロンが分泌されていない状態(エストロゲンの分泌のみで)で子宮内膜が厚くなってしまうため、“破綻出血”といって不正出血や月経過多、出血が止まらないといった病態が引き起こされます。

 

PCOSの原因には様々あるとされていますが、未だにはっきりとは解明されていません。

今回は、そんなPCOSについての新たな知見が、医学専門誌Nature Medicine volume 24, 834–846 (2018) に報告されていましたのでご紹介いたします。

 

フランス国立保健医療研究所(INSERM)のPaolo Giacobini博士らの研究チームは、PCOSが“出生前”に子宮内で抗ミュラー管ホルモン(AMH)と呼ばれるホルモンに、過度に曝露されることによって引き起こされる可能性があると示唆しています。

また、Giacobini博士は、マウス実験においてPCOSの病態を治療することに成功し、今年中にヒトに向けた臨床試験を開始出来る可能性があるとも報告しています。

 

PCOSと診断された場合、AMHの値が高くなることは先行研究より知られていましたが、Giacobini博士らの研究チームは、正常なAMH値を示した妊娠したマウスに対し、AMHを過度に投与したところ、産まれてきた二世代目のマウスに、排卵頻度の低下や妊娠の遅延、そしてなによりPCOS様の症状が見られたことを示しました。

つまり、PCOSと診断された女性が妊娠した場合、胎児は高いAMHに曝される可能性があり、それによって産まれてきた児に将来的にPCOSが引き起こされると推測しています。

加えてGiacobini博士は、PCOSを示した二世代目マウスに対し、不妊治療などで用いられるGnRHアンタゴニスト製剤である“セトロレリクス”を定期的に投与したところ、PCOSの症状が改善されたとも報告しています。

 

豪・アデレード大学の診断医で生殖医学の権威であるRobert Norman教授は、本研究に対し「PCOSが遺伝性の病態である可能性は前々から指摘されていたが、本研究結果は原因解明の一つの足がかりになりうる」と述べています。

Giacobini博士は、イギリスの科学雑誌New Scientist誌のインタビューに対し、「女性のホルモンを正常に制御し、“排卵”という機構を整えることは、最終的には女性の妊娠率を高めることに繋がる。自分の子どもや孫のために、AMHを測ったりPCOSについて考えたりすることは、将来的に魅力的な戦略になるかもしれない」と語っています。

 

PCOSは一般的に知られる病態になってきてはいるものの、まだまだ解明されていない部分も多く、広く普及されているとは言い難いのが現状です。PCOSは、重篤化すると子宮体癌の発症につながることもわかっています。「もしかしたら私もかな?」と少しでも疑問に思われたら、検査だけでも積極的に行ってみましょう。

 

※AMH検査をはじめとした不妊検査についてはこちらをご覧ください。