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海外の事例より;卵子凍結を選択した女性、その理由はキャリアでは無く‥‥?(卵子凍結)

公開:2018.11.29 最終更新:2018.12.01

研究結果倫理

桜十字ウィメンズクリニック渋谷培養部です。

「Freeze your eggs. Free your career.(卵子を凍結しよう。あなたのキャリアのために。)」

皆さん、こんなフレーズをご存知でしょうか?

これは米国のビジネス雑誌“Bloomberg Business week”で表紙を飾ったフレーズです。

 

2014年にFacebook社とapple社が女性職員の『卵子凍結』を福利厚生に加えたというニュースをご存知の方も多いかと思いますが、それらをきっかけに、女性のキャリア・結婚・出産に関する様々な議論が世界中で巻き起こっています。
また日本でも、ダイバーシティ(diversity;多様化)政策によって、女性の社会進出が推し進められています。

 

日本産科婦人科学会の声明によると、現段階で卵子凍結は「医学的な適応がある場合にのみ必要性を認める」とされており、当院でも卵子凍結は実施しておりません。
しかしながら、すでに日本でも一般女性向けにも卵子凍結を行う企業や施設も少しずつ出始めてきています。

今回は、2018年にスペイン・バルセロナで開催されたヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)での発表を混じえながら、『卵子凍結』についての海外の事例をご紹介していきたいと思います。

 

米国・イェール大学の生物医学系人類学者Marcia C. Inhorn教授は、学会の講演の中で、

「上昇志向の女性がキャリアのために卵子凍結しているという、
一般に根付きつつあるイメージは、
実のところ、その現状とは大きくかけ離れている」

と述べています。

 

一体どういうことでしょうか??

 

Inhorn教授は、アメリカ国内で卵子凍結を経験した150人の女性を対象として、卵子凍結に至った経緯についての調査を行いました。
すると、「キャリアのため」と答えたのはわずか2人のみで、対象的に最も多かった意見としては「パートナーがいないこと」でした。
この調査より、「対象者の多くは高学歴で仕事でも成功している人(※一定の役職に付いている)がほとんどであるが、卵子凍結に踏み切った経緯とキャリアにはほとんど関係がない」と結論付けています。

 

またInhorn教授は、より詳しい調査を行うため、イェール大学生殖医学センターのPasquale Patrizio博士、イエスラエル・ハイファ大学で看護学教授を務めるDaphna Birenbaum-Carmeli教授ととも、さらに大規模な検討を行いました。
対象となったのは卵子凍結を経験した29~42歳の女性(平均年齢37±2歳)で、卵子凍結を行っている7ヶ所の不妊治療クリニックがこの研究に協力しました。参加した女性のうち、同性愛者はわずか数人でした。

 

対象者に、卵子凍結に至った経緯について調査を行ったところ、最も多かった意見がやはり、「この先いつパートナーに出会えるか分からないから」といったものであり、卵子凍結に踏み切った理由に、恋人との破局がきっかけとなった女性もいました。
一方で「キャリアプランニングのため」と答えた女性はどの施設でも最も少数派でした。

 

Inhorn教授は講演の中で、ある米国医師の著書を引用して「女性が最良のパートナーと出会う確率は、0.09%しかないと考えている」と述べています。

その理由の一つとして、世界的な職業人口統計との関連性を挙げています。
北米、英国、日本、北欧、オーストラリアなど、多くの先進国で女性が男性と同等レベルの高い教育を受けられているため、女性が就く職業の幅が広がっています。
例えば医学系や工学系あるいは軍事など、男性の比率が多かった職業に女性の数が増えてきています。
そういった中で活躍する女性は、恋愛の対象になりづらいのではないか?と、Inhorn教授らは考察しています。

 

またInhorn教授は、卵子凍結が万能な技術であると一般の女性たちに誤解されていることにも言及し、卵子凍結には大きなリスクが伴うことについても警鐘を鳴らしています。
「女性は、卵子凍結を選択する前に、キャリアやライフプランニングについてもう一度精査する必要がある。人生のどの段階で家庭を築く予定なのか。こういった人生設計は、卵子凍結にかけるコストや成功率を考えるよりも容易にできる」と講演を締め括っています。

 

日本でも少しずつ一般的になりつつある卵子凍結ですが、卵子凍結に踏み切る前に、今一度自身のライフプランニングを行うことが重要になりそうです。