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妊娠に重要な栄養素 ビタミンDとカルシウム

公開:2018.10.27 最終更新:2020.12.26

研究結果基礎知識不妊と食事サプリメント生活習慣

桜十字渋谷バースクリニック培養部です。

過去に、「魚介類を多く摂取するカップルは妊娠しやすくなる」という研究発表をご紹介させていただきました。魚介類にはビタミンDとカルシウムが多く含まれ、この2つの栄養素が“妊娠の前後に積極的に摂りたい栄養素”として葉酸と同様に注目を浴びています。

今回は、世界トップレベルの内分泌臨床研究に関する査読誌The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolismから、これらの栄養素に関する最新の研究をご紹介したと思います。

ビタミンDやカルシウムは女性の身体はもちろん、胎児の骨や歯の発達に非常に重要な役割を担うことが知られています。ビタミンDはカルシウムの体内への取り込みを促進する働きがあることが知られていますが、実は“ビタミン”と名前が付いているものの、女性ホルモンや男性ホルモンなどのいわゆるステロイドホルモンに非常に似た構造があり、ホルモンの一種であると考えられています。そのため、妊娠の前後にも大きく関わっていると言われているわけです。

ビタミンDが妊娠に及ぼす影響

ビタミンDは太陽の光に当たること(日光曝露)によって体内でも合成され、不足すると他の動物種では繁殖力に影響を及ぼすことも示されています。そんなビタミンDですが、イタリア・ミラノにあるOspedale Maggiore病院とミラノ大学の研究チームは、ビタミンD欠乏症を示した女性は十分なレベルのビタミンDを有する女性と比較して、体外受精(IVF)での生児獲得率が半減すると示唆しています。

この研究を率いたAlessio Paffoni医師は「本研究はビタミンDがIVFを受けている女性の妊娠においてどのような影響を及ぼしているのかを調べた過去最大の研究である」と述べています。

Paffoni医師らのチームは2012年の一年間にOspedale Maggiore病院 生殖医療ユニットにおいてIVFを受けた335人の患者を抽出し、ビタミンDが十分なレベルにあるグループ(181人)とビタミンD欠乏症を示したグループ(154人)に選別して、この両グループを対象として臨床妊娠率の比較検討を行いました。

対象となった患者は18歳から42歳までの女性で両グループの間に平均年齢やBMI値などに差は無く、悪性疾患、高血圧、糖尿病、多発性硬化症などの既往がある患者は除外されたため、過去の病歴などにも差はありませんでした。なお、一般的に健康的な状態として推奨される血中のビタミンD量は30 ng / mlとされていますが、本研究では少なくとも20 ng / ml以上を示した女性は十分なレベルにあるとみなしました。

妊娠率の比較結果

この2つのグループで臨床妊娠率を比較した結果、十分なレベルのビタミンDを示したグループではビタミンD欠乏症を示したグループの約2倍の臨床妊娠率が示されました。また本研究ではビタミンDが十分なレベルにあるグループの方が採卵時の卵子獲得率、移植率なども有意に高かったとしています。

Paffoni医師はビタミンDが十分なレベルを示すグループでは、性ホルモンの分泌も安定していることが考えられるため、ビタミンD欠乏症を示すグループよりも良質な卵子を獲得できる可能性が顕著に高く、結果的に臨床妊娠率が有意に高かったのではないかと理論付けています。

Paffoni医師は「本研究はビタミンDの欠乏が不妊症に大きな影響を与えることを示唆している」とし「ビタミンDを積極的に摂取することや野外で活動することは、安価で簡単に進められる治療方法の第一歩になり得る可能性がある」と述べています。

ビタミンDの必要摂取量

続いて、臨床栄養学のカテゴリで最も高い評価を受けている学術誌The American Journal of Clinical Nutrition より、ビタミンDならびにカルシウムに関する最新の研究をご紹介します。

カナダ・バンクーバーのChild&Family Research Institute(CFRI)の上級科学者で、British Columbia Universityで食品システム学を務めるTim J. Green准教授は、妊娠の前後にビタミンDを含むサプリメントを摂取していた女性が、食事や日光曝露からは十分な量が摂取できていない可能性があると指摘しています。

本論文ではカナダ国内の妊娠中の女性336人を対象として、ビタミンDを含むいくつかのビタミンの血中濃度を測定し、カナダ保健省ならびに学会が推奨しているレベルとの比較検討を行いました。その結果、約65%の女性においてカナダ産科学会が推奨している妊娠中に必要とされるビタミンDレベルよりも低い値を示しました。また約24%の女性ではカナダ保健省が推奨する一般の成人女性(妊娠していない女性)に必要とされるレベルよりも低い値を示しました。

Green教授は「ビタミンDならびにカルシウムが、女性の妊娠のプロセスや妊娠後の胎児の発育・健康に不可欠であることは分かっているが、現段階では妊娠前後において女性が最適な健康状態を得るために、ビタミンDがどれだけ必要かについては世界中の研究者が模索している段階である」とする一方で「国や学会から多くの勧告があるにも関わらず、かなりの数の女性が十分なレベルの栄養素を得ていないということをこの研究は明らかにした」と述べています。

これまでにもお伝えした通り、ビタミンDとカルシウムは骨や歯の成長・発育に不可欠な栄養素です。胎児においてはビタミンDの欠乏が出生体重の減少と関連していることや、くる病(乳幼児の骨格異常を示す病気)につながる可能性が先行研究より指摘されています。また、ビタミンD欠乏を示す新生児では将来的に骨粗鬆症や1型糖尿病、喘息などを発症するリスクが増加する可能性も指摘されています。

本論文ではビタミンDが不足しがちになる理由として様々な見解が挙げられていますが、この論文の共著者でカナダ・モントリオールMcGill University臨床栄養学のHope A. Weiler教授は“カナダ”という土地や環境についても考察しています。

「人間は太陽光を浴びることによってもビタミンDを得られることが知られているが、カナダの気候では月のほぼ半分つまり年間にすると約5~7ヶ月の間、我々は太陽の光をほとんど見ることができない」と述べています。

なお、厚生労働省が発表している日本でのビタミンDの必要摂取量は5.5-7.0μg/日と定められています。健康的な食生活に気を付けることはもちろん、天気の良い日には外へ出て太陽の光をたっぷりと浴びることも妊娠への近道になるかもしれませんね。

ビタミンDとカルシウムが胎児に与える影響

最後に、Public Library of Science社より刊行されている世界最大のオープンアクセスジャーナルであるPLOS Oneより、これら栄養素が胎児へ与える影響についての最新の論文をご紹介いたします。

ノルウェー・トロンハイムNorwegian University of Science and Technology(NTNU)の研究チームによると、ノルウェー国内においてビタミンD欠乏症を有する妊婦の割合がここ数年で50%以上に上昇し、妊婦3人に1人は出産時にビタミンD欠乏症があると指摘しています。また、それらの影響によって新生児に疾病を発症するリスクが増加することも示唆しています。

ノルウェー・St. Olavs病院のシニアコンサルタントでNTNU公衆衛生学のMiriam K. Gustafsson博士は、ノルウェー国内でビタミンD欠乏症の妊婦が増加している点に着目し、胎児に対してどのような影響があるのかを調べるための調査を行いました。

本研究では、トロンハイムおよびスタヴァンゲル両都市の妊婦855人を抽出し、一定期間ごとにビタミンDの血中濃度を測定しました。その結果、妊娠中期の測定ではトロンハイムの女性の約47%、スタヴァンゲルの女性の約51%がビタミンD欠乏の値を示しました。また、妊娠後期および出産時の測定では全体の約34%の女性にビタミンD欠乏が認められたことを示しました。

妊娠中期に重度のビタミンD欠乏が認められた妊婦では正常な値を示した妊婦と比較し、子癇前症や妊娠糖尿病の罹患率が有意に増加し、早産となる確率も増加していたと指摘しています。

また、オーストラリアの先行研究においてビタミンD欠乏の妊婦から産まれた新生児では、カルシウムの活性が減少し骨量が低下することが示されていましたが、本研究でも同様の結果が得られたとしています。さらに、これらの児について追跡調査を行ったところ、くる病などの骨格異常、小児喘息、心血管疾患の発症リスクが高かったことも示しました。

ビタミンDはカルシウムを腸で吸収するために必要な栄養素であり、妊娠中では胎児の骨量を増やし、成長・発育を維持します。そのため、胎児の発育に十分なカルシウムを確保するためにはビタミンDは必要不可欠となります。

Gustafsson博士は「現在、妊娠の前後に推奨される栄養補給剤として葉酸を服用する女性が増えており、葉酸が脊髄欠損のリスクを低減できるという知見は世界中で高く評価されているが、近年では様々な研究結果からビタミンDやカルシウムの重要性に関する知見も同じレベルに達してきていると考える」と述べています。

この論文の共著者でSt. Olavs病院のUnni Syversen医師は「我々は妊娠時に適切なビタミンDを効率よく得る方法として、タラやサメの肝油を一日一回摂取することを推奨している。また、週に2~3回魚料理を摂取するだけでも、確かな効果は見られている」としています。

Gustafsson博士はビタミンDは脂溶性ビタミンであるため体内依存度が高く、あくまで国や専門機関が定める推奨量を超えないことが重要であると前置きした上で、「妊娠中の女性にこれらの情報を積極的に提供することで、多くの児が救われる可能性がある。保健局や医療機関においては、臨床で働くスタッフに周知されることも重要だ」と述べています。

女性の健康のためにはもちろんのこと、何よりも赤ちゃんのために、妊娠の前から必要な栄養素をバランスよく摂取し、赤ちゃんを迎える準備ができるように心がけましょう。