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【院長ブログ】精子DNA断片化(SDF)の影響とは

公開:2021.08.14

研究結果男性不妊

こんにちは
桜十字渋谷バースクリニック院長の井上です。

精子DNA断片化(SDF)の影響に関する報告を紹介致します。

Fertility and Sterility Vol. 116, No. 1, July 2021 0015-0282

従来の精液検査における精液量、精子濃度、運動率、形態などはWHOの基準と比較することにより精液を評価しています。最近、精子のDNA断片化は男性不妊症を引き起こし、妊娠に悪影響を及ぼす可能性が報告されています。最近の2つのメタアナリシスでは、精子のDNA断片化がART治療後の臨床妊娠や不育症、流産に影響を与えることが示されています。

DNAの断片化には一本鎖のDNAが切断されている場合と二本鎖のDNA断裂を起こしている場合があります。一本鎖のDNAの断裂くらいであれば多くは修復可能で、大きな影響をもたらさないこともありますが、高度に起きた場合は妊娠に影響する可能性があります。二本鎖のDNA断裂は酸化ストレスや放射線などで起こり、妊娠、流産に関係する可能性があります。

人間の精子はDNA修復活性を持っていないため、受精が起こると、DNA修復活性は卵の成熟時に蓄えられた卵母細胞の転写産物に依存します。 卵母細胞がDNA断片化を修復する能力は、DNA断片化の程度と、細胞質およびゲノムの質に依存します。 DNA断片化の影響に年齢が影響するかどうかはまだ解明されていません。 この報告の目的は、さまざまな年齢層がDNA断片化に影響を及ぼすか調査することでした。

女性の年齢に応じて3つのグループに分けられました。
①≤36歳(n = 285)②37〜40歳(n = 147)③ > 40歳(n = 108)
精液サンプルは、精子クロマチン分散法を使用してDNA断片化について評価され、低断片化インデックス(<30%SDF)および高断片化インデックス(≥30%SDF) に分けられました。
ICSIを行い、臨床転帰とDNA断片化、年齢について検討されています。

<結果>
①36歳以下および②37〜40歳では、DNA断片化が30%未満またはDNA断片化が30%以上のサイクルで、検査結果と臨床転帰に有意差は認められませんでした。

女性の年齢が40歳を超えると、高品質のD3胚が大幅に低下し(54.4%vs。33.1%; P = .005)、胚盤胞の発生率(49.6%vs。30.2%; P = .035)、高品質 胚盤胞率(70.6%vs。44.6%; P = .014)、妊娠率の低下(20.0%vs。7.7%、P = .040)および着床率(19.7%vs。11.9%; P <.001)、および流産率の増加(12.5%vs。100.0%; P <.001)は、30%未満のSDFと比較して30%以上のSDFのサイクルでそれぞれ観察されました。

<結論>
40歳以上は、DNA断片化インデックスの高いサンプルに由来する精子で受精すると、質の悪い胚に成長し、着床率と妊娠率が低下し、流産率が高くなりました。

 

以前のブログでもご紹介ましたが、当院ではマイクロ流体精子選別装置(精子セパレーター)を使用し、この精子DNA断片化をなるべく低くする方法も行なっています。

この精子セパレーターは、8μmの微小な穴を流路とする装置で、この微小構造より最も前進運動性の高い精子が通過し、その他の通過できない奇形精子や不動精子は回避することができ、遠心分離せずに精子を回収する装置です。スイムアップや密度勾配に比べて DNA のダメージが少ないことが期待できます。

この精子DNA断片化を改善する方法として、広く知られていることですが、禁煙、抗酸化作用のあるビタミンC、E、CoQ-10などが報告されています。また、禁欲期間が長いとDNA断片化が悪くなるため、禁欲期間が長い方は体外受精を行う前に射精を推奨しています。また、精索静脈瘤など手術を行うことで、精子DNA断片化を改善することもあります。

当院では、精子DNA修復機構が追いつかないと予想される40歳以上の方は精子セパレーターの使用をおすすめしております。また、なかなか胚盤胞到達しない方や反復着床不全の方も推奨しています。